【奏】雪に願う事

今日はバレンタインデー。


ずっと決めてた。



だから…会いたくても

会いに行かなかった。




これが最後だから…。



今日は1日中

学校中がそわそわしてて

色で例えるとピンクで…。



机からチョコを発見して
喜ぶ男の子。


告白しに行くのに
ドキドキ緊張しながらも
期待を浮かべてる女の子。



そんなピンクな色の中

違う色の私…。




放課後、

いつものように
下駄箱で泰生先輩を待った。



和真先輩と
階段を降りてきた泰生先輩。




久々に近くで見た泰生先輩に

胸が途端に騒ぎ出す。




泰生先輩に和真先輩が
何かを耳打ちすると
そのまま、靴を履き替え
和真先輩は
先に出て行ってしまった。



また…邪魔しちゃったかな…。



胸が痛い。



それでも、下駄箱じゃなんだから
人目のつかない
空き教室の前に移動した。



何も言葉を発せない私に

初めて

泰生先輩から声をかけられた。




「何か…おまえ見るの久々だな」




一度も…
心暖って呼ばれなかったな…。



そんな事を考えながら
小さく微笑んだ。



「ねぇ…泰生先輩?」




「どうした?」



優しい瞳と同じ優しい声。


それだけで胸が熱くなる。



「今までまとわりついて
迷惑かけてごめんなさい」




「…はっ?」



困惑している泰生先輩を
真っ直ぐ見つめた。




「泰生先輩はいつも
信じてくれなかったけど
私は本当に泰生先輩が好きでした

どんなに遠くにいても
すぐに見つけてしまうぐらい…。


でも…」




零れ落ちそうな涙を
グイッと飲み込んだ。




「もうまとわりついたりしません
だから…
…最後だから…
これだけは受け取ってください」



私が差し出した小さい紙袋。



迷いに迷った。



……けど、最後だから…。