菜綱はユタロウに会った事でもあるのだろうか?

どっちにせよこの一言に俺は救われた。

死んだ人間が戻るわけはない。

それは分かってる。

これは一種の儀式だった。

妹との死と、あの忌まわしい過去との決別の為に。

俺は時々夢を見た。それは郁子が小学生に入学する夢だった。

俺は郁子の頭に手を当てると
「入学おめでとう!」

両親に手を握られた郁子はとても、とても悲しそうな目で俺を見ていた。
「とーじ!おーい、とうじったら!」
「あっ、ごめん!どうした?」

夢の事を考えている内に俺の思考は完全に飛んでいた。
「図書館どこ?」
「あぁごめん、ごめん!」

困った事が起きた。

たしかに俺は図書館を使う事はあまりない。

だが図書館の場所を忘れるわけはなかった。

しかし今俺は図書館へと続く河原道を見つける事が出来なかった。
「ははっ、おかしいな。前はこの辺りが川でその土手にノラ猫の集落があったんだ。」
「ふーん、でもないね」

菜綱は芋羊羹を食べ終わって自分の手を舐めていた。