俺は泣きじゃくる郁子の肩からそっと手をどけるとユタロウに言った。
「ユタロウ!ありがとう。後は俺が消えるだけだ!」

俺はもう一度郁子に振り返った。
「郁子!強く生きろ!」

次の瞬間郁子の腹部を強く打った。彼女は力なく崩れ落ちた。
「悪いが、ユタロウ、郁子を頼む」
「分かった。お前の願いは全て叶ったのか?」
「あぁ、殆どな!」

そう、俺は郁子に会いながらも菜綱に会いたいと思った。

彼女に謝れればどれだけ良かっただろうか?
「そうか、ならば良かった。お前を心置きなく消せる」

今はその言葉を甘んじて受け入れられるような気がした。
「明日、というか今日か?公園でいいんだな?」
「そうだ。」

ユタロウはそれだけ言うと郁子を抱えバイクに跨り去って行った。

俺はもう何処にも行く気は無かった。

そのまま公園に行こうと、それだけを思った。

街の交差点を抜ける時、いつか出会ったホームレスの霊に出会った。
「よぉ、兄ちゃん」
「あんたはいつかの!俺さ、本当に死んでたは!」
「死んでるは死んでるが良い顔してんぜ兄ちゃん」
「オッサン!あんたもね」

後十五メートルくらいで公園だった。

俺の夜が始まって終る公園。

俺が消えた後は俺はどうなるのだろうか?

例えばどんな結末が待っていたとしても俺は悔やまない。

その自信だけは何故だか確信が持てた。

これは俺の、俺だけの夜だから。