あれから家に帰っていない。

何処をどう彷徨ったのか覚えていない。

おかしな話だ。

冗談ではなく本当に忘れてしまった。

菜綱に会いたい。

今の俺の正直な気持ちだった。

菜綱の事は忘れたくない。

俺はまだ夕方の四時頃から公園にいた。

ベンチで何をするわけでもなく時間を過ごした。

時々俺の隣に座る奴もいたけど特に話すわけでもなかった。

午後七時を回ったくらいだろうか?鳴き声が聞こえた。
「みゃお」

あの三毛猫だった。

何となく切なくなった。

近寄った三毛猫を抱き寄せると俺は自分の頬をその猫に摺り寄せた。

温かい。
「うっ、あ、ああああ」

久しぶりに泣いた。

どれだけ時間がたったか分からない。

時間の感覚も分からなかった。

だけど多分本当なら菜綱が来てもいい時間だと思う。

やっぱり菜綱は来なかった。どうやら俺は完全にフラれたらしい。
「にゃんこ!一緒に行くか?」

返事の代わりに喉を鳴らした。

俺の後ろからトテトテとついてくる所からしてOKって事でいいのかな?

猫なのに微妙にとろいから俺が抱えて歩く事にした。
「さてさて、何処に行きましょうか?」

三毛猫は俺の腕から飛び降りると俺を誘導するかのようにゆっくりと走った。