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4月8日 23:19


気分が悪くなる程電波の向こうの彼女は泣き喚いている。


冬矢は思わず顔をしかめた。


「浮気なんかしてないから」


煙草を灰皿に押し付けながらそう言ったが、彼女は信じようとはしなかった。


「信じられないなら死ねよ」


冬矢はそう言って電話を切った。


「毎回毎回欝陶しい…」


そう呟いた冬矢だったが、心の中ではそんなことこれっぽっちも思ってはいなかった。


付き合っては振ったり振られたりを繰り返してきた冬矢にとって、自分自身が嫌になっていたのだ。


山積みの雑誌の中から至る所が汚れたルーズリーフを取り出す。


冬矢は別れた数を『正』の字でこのルーズリーフに書いて記録していたのだ。


「48人目。笑えるよな」


冬矢は部屋の中のあるモノに向かって笑いかけた。


あるモノとは冬矢にとって忘れることの出来ない悲しい過去の証なのだ。

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