――優喜家。
バタンッ!
「おかーさん、お客さんって誰〜?」
ただいま。も言わずにいきなり母を問う麻津名。
しかし、母も慣れているので普通に答える。
「…麻津名をよく知っている方よ」
「私をよく知っている人?」
「ええ」
疑問符を浮かべる麻津名に母の表情は泣きそうだった。
――――数分後。
ピーンポーン。
家の呼び鈴が鳴る。
「はいはーい」
麻津名が笑顔で駆けていく。
その後ろを、怒っているともとれる表情をした麻津裏がついていく。
麻津名は、扉を開ける。
…この扉を開けた瞬間、全てが変わってしまうとも知らずに……。
――カチャン…
「どちら様で……」
「浬津様、お久しぶりでございます」
出てきたのは、黒いコートに身を纏った長身の男。
「誰でしょう?」
「…入ってください」
麻津名が男に聞いているのに、麻津裏は普通に招き入れる。
「麻津裏くん、ありがとう」
「ほら、麻津名。行くぞ」
男に背を向け、麻津裏は麻津名を連れていく。
その後ろを男はついていく。
「麻津裏兄ちゃん、誰なの?」
「黙ってついてこい。すぐわかる」
「……?」
――――…
「あらあら。ご本人たちは出向かないのですか?」
母が、棘のある言い方をする。
「ご夫妻は、本日は仕事により出向けなくなり…代わりに私めが。」
「…まったく、とんだ無礼者ね」
「では、浬津様をこちらへ」
勝手に飛び交う話を、麻津名は不思議そうに見ている。
「麻津名には、まだ話していません」
「…てっきり話しているものだと思っていましたよ」
「え…浬津って私なの?麻津裏兄ちゃん」
「……黙って聞いておけ」
さっきから口を紡ぐ麻津裏。
顔をしかめる母。
麻津名を浬津と呼ぶ謎の男。
