ゆずが大広間につくと、千は広間の中心のピアノに寄りかかっていた。
千はゆずがこの場に来るのを知っていた。
瞳は閉じられているがゆずは千に見つめられているかのような錯覚に陥る。
千の圧倒的な存在感に後ずさりしたくなった。
けれど、聞きたいことがあるのだ。
言いたいこともある。
『何故、戻ってきてくれたんですか?』
千が目の前を去ったとき、なんとなく感じた。
千は自分がいくら手をのばしても届かないところにいる。
千もそれを知っているから自分の前を去ったのだとゆずは思っていた。
もしまた出逢えるときがやってくるならば、それはきっととても先の未来だと勝手に思った。
『何故…ね。』
千は閉じていた瞼をゆっくりと開く。
その姿ですら妖艶に思えてゆずは目をそらしたくなった。
『壊しに来た。ただ、それだけだ。』
『それってどういう……ん?!』
ゆずが応えを返そうとした瞬間、千は目の前に現れて唇を奪った。
唇を塞がれたことにも驚いたが、千が一瞬で5メートル以上あった距離を埋めたことにも驚いた。

