移動の最中、千と泉とマクベス以外は疲れからか眠りについてしまった。
千の腕の中で眠るゆず。
千は優しく強く抱きしめる。
考えることはこれから先のことばかりだ。
目の前にいる愛しい人。
何者にも代えがたい存在だ。
ゆずは心の優しい子。
だから自分が天使で千が悪魔だと知ったのならば・・・どの道を選ぶのか。
考えなくても分かる。
真実は、一つ。
別れだけなのだ。
全ての記憶の欠片を手にしたら、引き裂かれる運命なのだ。
“なら、自分のモノにすればいいだろう。無理矢理にでも”
千の頭の中に響く、誰だか分からないものの声。
“愛しいのに手放す必要があるのか?むちゃくちゃにして壊してしまえばいいんだ”
「壊す・・・だと?」
“そうだ。何も分からなくなってしまうまでむちゃくちゃにしてやればいい”
いつだっただろうか。
この声の誘惑に負けてゆずをめちゃくちゃにしてしまったのは。
もうそんなこと、二度と繰り返したくなどない。
ゆずを傷つけることを望んでいるわけではない。
それなのに、ひどく魅惑的なその声に・・・。
脳天を揺さぶられるような感覚に陥る千。
ぐっと奥歯を噛み締めて脳内に響き渡る声をシャットアウトしようとしていた。

