『マクベス、この子をこのまま千とゆずちゃんの元へと連れていきます。記憶を戻すかどうかは千に決めていただきましょう。この子を連れて今すぐに千の元へと戻ります』
気を失っているイアンを抱きかかえ、マクベスにそう告げる泉。
『なら俺様の分身を連れていくんだな。これでいつでもそいつの記憶を戻してやることができる』
『ええ、助かります。それでは暫くの間はグレイスのことを頼みますね』
マクベスの口から黒い羽をはやした手のひらサイズの小さな蛇が現れた。
マクベスの分身は小さな蛇となり、黒い羽をはやし泉と行動を共にする。
大蛇である本体のマクベスに比べ、容姿もかなりキュートである。
といっても、マクベスそのものに変わりはないので喋り方は俺様口調なのだが。
ただ、小さくなった分声が高くなり威圧感は無いに等しい。
『では僕はこれから千の元へと向かいますので、マクベスの本体はこの屋敷をお願いしますね』
『はやく行くぞ』
分身のマクベスが泉を急かす。
『僕の空間でこの子、イアンごと運びます。あの湖の場所を察知されるわけにはいかないですからね』
泉は右手から真っ黒な四角い物体を生み出し、息を吹きかけた。
するとその四角い物体が一瞬で大きくなり、一か所に歪んだ穴が開きそこから中へと入りこんだ。
イアンを抱きかかえた泉と、羽をはやした分身のマクベスが空間に入り終えればその穴は自然と塞がった。
『あいつらを呼んでおけよ』
マクベスが泉に言ったあいつらとは、泉の魔力を温存している蛇たちのことである。
『ええ、かなりの魔力を消費しますからね』
泉の創造した空間を使えば、色んな場所へと誰にもばれずに移動することが出来るのだ。
もちろん、泉以外でも空間を創りだすことが出来ればそれは可能であるがほとんどのものは空間移動をしない。
使いようではかなり便利なものではあるが、膨大な魔力を消費してしまうのだ。
まず、泉と同じように空間を創造できるイアンには空間移動をすることは出来ない。
出来たとしても、命と引き換えのような大技である。
そんな危険なことを簡単にやってのけてしまえるのは泉が魔力を温存する力を持っているからだ。

