ゆずを抱きしめて、千は月明かりの下に羽ばたいた。
向かう先は、暗く深い、森の奥。
もちろん人などいやしない。
生い茂る木々、密かに暮らす動物たち、青く光る不思議な湖。
『ここだ』
『湖・・・ですか?』
湖の中心へとゆずを抱いた千が降下していく。
『ああ』
千が親指と中指でパチンと音をたてれば湖の中心に穴が開き、金色の螺旋階段が現れた。
千はそっとゆずを階段に降ろす。
『しばらくはここで過ごすことになる。少し窮屈かもしれないが、悪いな』
『いいえ、とってもキレイなところですね。私、自然の中の方が落ち着くので嬉しいです』
螺旋階段を降りてゆけば、降りたところの階段はすっと消えて湖に変わっていく。
とても不思議な光景にゆずの好奇心が疼きだす。
『湖の中に、こんな空間があるなんて・・・』
階段を降りきって現れた木製のドア。
『ああ、ここは少し変わっているんだ。ここがリビング。奥が寝室だ』
そのドアを開けて広がった景色。
十五畳程の部屋に、対面式のキッチン、ワインレッドの絨毯がひかれていて、全体的なつくりとしてはログハウスのようだった。

