漆黒の羽を広げ、
ゆずを抱えて空を移動している千。
『少しの間、目を閉じて息を止めていろ』
上空から住み慣れた屋敷をみつけ、ゆずに言った。
言われるがまま、目を閉じ息を止めるゆず。
刹那、感じた物凄い風の音。
上空から急降下しているのだと理解したのは、地上に降り立ってからだった。
『もう大丈夫だ』
大丈夫だと言われて目を開けたゆずの目の前には、見慣れた屋敷の庭の風景だった。
かなり上空を飛んでいた、はずなのに。
『は、はやい・・・』
呆然とするゆず。
『385㎞』
『え?』
ゆずを抱きかかえたまま平然と答える千に、視線を移す。
『俺の最高時速だ』

