ぼーっと桜に見入っていると
「よっ、」と声を上げた彼は華麗に


「…ってぇーっ!」


…いや、よろめきながら桜の木から飛び降りて来た。



その反動で
桜が舞い散って。


「俺、雨宮 泉(アマミヤ イズミ)」


君は?
と尋ねられたけど、あたしは喉の奥に出かかった言葉を、上手く声に乗せられなかった。




…桜の花びらが、雨のように降り注ぎ

彼を
淡い桃色に彩っていたから。



それが
あまりに綺麗だったから。



この胸のトキメキを
“恋”だと認めるのが

多分、悔しかったんだ。




「……桜、」

「え?何?」

「…っ、だから、あたしの名前!綾瀬…桜!」

「桜!?マジで!?」


すげぇーっ!と何やら興奮した様子で、泉はあたしに手を差し出した。




「きっと運命だな!」

「……運命?」

「そう!俺が好きな桜の下で、桜って名前の君に出会った。」



笑った泉の肩に
ひらり、と桜が舞い乗って。


「よろしくね、桜!」


重なったお互いの手に
あたしの恋心が、小さな蕾を芽吹かせたんだ。