「桜ってさぁ、」

「えっ?」


口を開いた彼に、あたしは思わず声が裏返ってしまった。



「本当、綺麗だよなぁ~。」

「あ、あぁ…そっちか。」


“桜”

てっきり名前を呼ばれたのかと思ったけど、よく考えればあたしと彼は初対面。

彼があたしの名前を知っているはずがない。



…何、勘違いしてるんだあたし。


一人、苦笑してみる。



そんなあたしに気が付くはずもなく彼は、桜を見上げながら続けて言った。


「普通、花って咲いてる時が一番綺麗じゃん?」

でも、と呟いた彼に
あたしは再び視線を桜へ移す。



「…桜は、散る時が一番綺麗なんだよな。」


彼の言葉に
今しがた散った桜を見つめた。

ふわり、ふわりと風に舞い
地面へと落ちる花びら。

まるで絨毯のように地上をピンクに染めて。





…桜は

散る時が、一番綺麗―――。







それは
もしかしたら、あたしの未来を予想していたのかもしれない。

桜は、散る運命。


だから
きっと、この恋も報われないんだ…と。