桜-cherry rain-雨



「卒業証書、授与。」


厳かな静けさ。
聞こえるのは、クラスメート名前を一人一人呼ぶ、先生の声だけ。


たまに聞こえる啜り泣く声が、やけに遠くに聞こえて。

3年生全員が胸に差している真っ赤な花飾りが、おかしなくらい目立って見えた。



校長先生の退屈な話は
多分、今日初めてみんながちゃんと聞いていたかもしれない。

いつもは寝ている人ですら
ただ真っ直ぐ前を向いている。



だけど
その中であたしは一人、ずっと思い返していた。



泉と出会った日から
今日までの学校生活を、記憶から呼び起こしては胸を痛めて。


でも

泉が居たから
あたしは笑っていられた。



何度も
傷ついたけど

その度に
諦めようと言い聞かせたけど


それでも
泉を好きでいたのは

それ程
泉が好きだったから。




涙を流して
泣きわめけば忘れられるような

そんな
浅い恋なんかじゃなかった。




『桜、』

名前を呼ばれただけで
膨らんでいく恋は、あたしが感じてる以上に大きくなっていたんだ。




だから、泉――――。