「やっぱり、あかん」
聞こえてきた言葉に、そっと瞳を開く。
あかん?
何が?
「血をもろうたりしたら、あかん」
「‥‥血?」
「すまんかった。行き成り襲う様な真似をしてもうて‥ッ!!」
彼は土下座をした状態で、床に頭を付けて言った。
「血が、必要なの?」
「‥‥」
黙り込んだ彼に私は‥‥
「要るのか、要らないのか、ハッキリしなさいっ!!」
と、怒鳴っていた。
ハッと口を押さえて彼を見れば、驚いた表情の彼と目が合い彼は笑った。
「要るけど‥、お前が痛い思いするやろうし」
「血をとるんでしょ?なら痛くて当然よ」
「せやけど‥‥」
私は鞄の中から裁縫道具を取り出して、その中から針を一本手に取った。
そして‥‥
「な、何してんのやっ!!」
指に刺した。
プクリと赤い血が出て来て、指を流れ出す。
「はい」
「『はい』って‥‥」
「要るの?要らないの?」
同じ台詞を言えば、しぶしぶと彼は私の血を自分の手にとって舐めた。
「‥‥おおきに」
これで、またしばらく生きれるわ。
彼はそう言って私の前からスタスタと去っていった。
‥‥『しばらく生きられるわ』?
その言葉にどういう意味があるのか、この時の私には理解が出来なかった。
そして、初めて会った気がしなかった事に、
大きな意味があった事も‥‥。

