気付けば、華の目には今にも滑り落ちそうな涙が溜まっていた。
膝に置いているタオルをぐっと握りしめて、口を開く。

「ごめんなさい」

俺はどういう意味か分からず、返す返事が見つからんかった。

「困らせたかったんじゃないの。今でもあんたの事、好きなのは本当だから」
「‥‥は、華。俺は‥‥」
「今のあんたを、見て欲しいんでしょう?」

そうや。
例え“前世”で会っていても、俺らが今いる処は“前世”やないから。

「華、ごめんな。俺はお前自体が受け入れられんって事や無いんやで」

ただ、お前に“今”の俺を見て欲しかっただけ。

その為に、まさかお前を泣かせてしまうとは思わんかった。
こんなに、苦しい思いさせるとは思わんかった。
俺、最悪や。

「金司」

これは、“今”の俺の名前。

「華、すまん」

俺は床に頭を付けて華に土下座した。
こんな事しても華を泣かせてしもうた代償は、もっとデカいもんやろう。

「‥何で、金司が謝るの?」
「何でって、お前泣かせるまで事を大きくしてしまったし‥」
「私がいけないのよ。“前世”の事思い出したら、それをいつまでも引きずろうとしてたし」
「いや、でもその記憶があったから、俺らはまたこうやって話せてんのやし」
「でも、今は“前世”じゃないからそんな事もういいわよ」
「何でやっ!“前世”の記憶があるから、俺らまた結ばれんのやろっ!?」
「‥結ばれるの‥っ!?」
「そや、やから“前世”の記憶に感謝せなアカンっ!!」

そう言うと華は顔を赤くして、よくそんな恥ずかしい事いえるわね。と俯いた。
何や?何か恥ずかしい事言うたかいな。
俺は当たり前の事言うたまでやでっ!!
あん時と、矛盾しとるのは自分がよう分かっとるが。

でも、何か華の反応がいまいち‥‥ま、まさか


「‥もしかして、好きな人出来たんかっ!?」
「はぁ!?どういう勘違‥」
「あ゛~、俺があんな事言うたからかぁ‥!!」

せやかて、あん時は“前世”と“今”の事でというか、
華の事で頭ん中ごちゃごちゃなっとって、痛かったんやし‥‥
と一人で舞い上がっていると、飛んできた。



‥‥久しぶりの、愛の鉄拳や。