「‥華、お前が好きなのは“俺”やない」
「‥どういう事?」
「お前が好きなのは“俺”やない。“志黄”やろ?」
何、それ‥‥
「で、でも、あんたと“志黄”は“同じ”でしょう?」
「‥確かに“同じ”やけど、違う」
「い、意味が分からないわよ」
「俺は確かに“志黄”としての前世を持っとる。でもな、今は姿も時代も違うんや」
「‥‥」
確かに私も姿は違うし、時代も違う。
だからって、“あんた”への気持ちは‥‥。
「俺は今“金司”なんや。お前の好きな“志黄”やない」
厳しい様な、苦しい様な、悲しい様な。
そんな複雑な表情で、あんたは言い捨てた。
その言葉は、すとんっと私の心の中に重く落ちる。
そして私に背を向けて、目の前から去ろうとする。
「‥っ、」
『待ってっ!!』
そう言おうとした口は動かなかった。
その背に伸ばそうとした手は、重力に引かれたまま。
私は今、何を見ているの?
“金司”の前世の“志黄”?
“志黄”の後世の“金司”?
どちらにしろ、“同じ”人。
でも、それをあんたは『違う』と言った。
だんだんと、遠くなっていく足音。
決して、振り返らない。
「‥‥やっと‥」
会えたと思ったのに‥。
また、共に時間を過ごせると思ったのに。
そして一度も振り返る事のなかった背中は、階段の薄暗い陰に吸い込まれて、
消えた。

