俺は華に応急処置をして、資料室を適当に2人で片付けて学校を出た。
辺りはもう真っ暗で、街灯だけが頼りだった。

「すまん、真っ暗くなってまで手伝ってくれて‥」
「先に帰ってていいって言ってくれていたのに、帰らなかった私がいけないのよ」
「せやけどなぁ‥」

そうや、お前に訊きたい事があったんやった。
目が覚めた時に感じた、一番の違和感の事。

「なぁ、華」
「何?」
「お前、俺に血くれたんか‥?」

そう訊いただけなのに、華は俺からパッと顔を慌てて逸らした。

何や?その反応は。

ただ血をくれただけやったら、そんな反応せんでええやん。

「あ、あげたわよ」
「そうなんか、おおきに」

俺がぽんぽんと頭を撫でると、子ども扱いしないでよ!と手を叩かれた。
こんなところまで、昔と全然変わっとらんな。

俺は華を送ると、紅の実家に行った。
紅はおらんけど、爺ちゃんに訊きたい事があるからな。

「こんばんは」
「おぉ、金司。久しぶりじゃなぁ」

ニコニコと笑いかけてくる爺ちゃんは、一回り小さくなった様に見えた。
‥‥俺が大きくなったせいかもしれんけど。

「爺ちゃん、ちょっと訊きたい事があるんや」
「ん?何かの?」
「吸血鬼の体内の血液が消化されたら、吸血鬼は死ぬ言うけど」

それって、ホンマか?
爺ちゃんはこの言葉に、顔をしかめて返答した。

「いや、正確には違うんじゃ」

やっぱな。
せやったら俺、今頃生きとらへんで。

「吸血鬼は体内の血がすべて消化されたら、我を失い、誰彼構わず襲いだすんじゃ」

‥‥生きる為の血を求めてなぁ。

「もし、大体30分以内に血にあり付けなければ死ぬんじゃよ」

爺ちゃんは、俺を見て目を細めた。

「今日、我を失ったみたいじゃのぉ」
「ああ、そうらしいわ」
「でも‥‥、もう死ぬような事はなさそうじゃな」

ニカッっと子供の様に笑った爺ちゃんに、疑問を抱くのは無理でもない。
『もう死ぬような事はなさそうじゃな』って、どういう意味なんや?
俺は爺ちゃんの言葉の意味を知らないまま、家路に付いた。



俺の体に起きたもう一つの変化にも、気づかずに。