紙とインクの臭い。
腹部からの鈍い痛みで目が覚めた。

今までより軽くなった体に疑問を抱きながら、辺りを見渡す。
埃だらけの本に本棚。
それに俺の横には‥‥

「華‥っ!!」

俺は倒れていた華を抱き抱えた。
華は手首から血を流し、首には何かに閉められた後が。
良く見ればそれは手の形をしていて、俺は恐る恐る自分の手を華の首に当てた。

「‥な、」

言葉が出てこなかった。
その手形と俺の手の大きさが、ぴったり合ったから。

一体、華に何があったんや。
俺自身にも。

確か‥華が此処の校舎の廊下にいて、話し掛けたら目眩がして‥‥。



‥‥それから、どうなったんや‥?



強い光でも浴びた様に、頭の中は真っ白だった。
何も、思い出せん。

「‥‥ぅ、ん‥」
「華!?」
「‥きん、じさん。」

良かった‥‥。
華はそう言って俺の頬に手を伸ばしてきた。

「あのまま、元に戻ってくれなかったら‥‥」

元に戻る‥?

「華、お前のこの傷‥‥俺がしたんか?」
「‥‥」

華は俺から視線を外して、床を見た。

「そうか‥、俺がしたんか」
「その時の事、覚えてる?」
「いや、何も分からん。思い出せんのや」

ホンマに。
でも、何かが‥‥

「金司さん、全く別人だった」
「え?」
「本当に、あのまま元に戻らないかと思った」
「そんな‥怖いもんになっとったんか?」
「うん。凄く怖かったわ」

そう言いながら、華は本物の花の様に綺麗に笑った。