涙でぼやけた視界の中。
ゆらゆらと動くそれは、またこっちに襲い掛かってきた。
勢い良く伸ばされた腕を避けながら、涙を拭って視力を回復させる。
私に当たる事の無かった拳は、そのまま本棚に当たってバラバラと本の雪崩を起こした。
‥‥何で、金司さん襲い掛かってくるの!?
気づけば角の方に追いやられていて、体のどこかを掴まれない様にとまた腹部を殴った。
「ご、ゴメンなさい‥っ!」
殴る分だけ罪悪感はどんどん増した。
殴った時に飛んだ手首の血が、金司さんの頬に付いた。
金司さんの動きは止まり、私の血を指で拭い取って口に運んだ。
すると今まで虚ろだった目が、一瞬だけさっきまでの輝きを取り戻した。
「‥‥血が‥」
血があれば、元の金司さんに戻る。
そう確信した私は、未だ自分の手首から流れ出続ける血を口いっぱいに含んだ。
‥‥ゴメンなさい。
もしかしたら、殴られる事よりも嫌かもね。
口に出さず謝って、私は金司さんに
口付けた。

