My Mother

相変わらずお父さんの暴力は続いていた。

夜中に目を覚ますとお父さんの怒鳴り声が聞こえる。

ああ…まただ。

もう慣れっこだった。

それが当たり前だった。

あたしの知らない所でお父さんはお母さんに暴力を振るい、大声で叫び続けた。

あたしは怖くて布団をかぶった。

その頃からだった。

お母さんの体が細くなっていったのは。

でもあたしは気付いてあげられなかった。

あたしはただ幸せなふりをした。

毎日が平和に進んでいると勝手に思っていた。

あたしは幼稚園を卒園し、小学校に入学した。

新しいランドセルが嬉しくて、学校で起こる全てのことが眩しくて、お母さんの異変に気が付いていなかった。

『最近お母さん元気ないね』

そう言ったのはその年の春だった。

少しだけ小学校にも慣れ、学校生活が順調に進み始めたその頃、あたしはやっとお母さんの異変に気が付いた。

台所に立つ後ろ姿が小さく感じた。

『ちょっと体調が良くないだけだから大丈夫だよ』

『えー、大丈夫じゃないよ、お医者さん行こ』

あたしはそう言ったけど『桃子がいい子にしてたらね』って誤魔化された。

お母さんはずっと病院に行かなかった。

でも体は確実に弱っていた。

お母さんはあたしと家庭を守るために病院に行かなかった。

あたしが夏休みに入った頃、最上階の人が自殺した。

飛び降り自殺。

救急車のサイレンが鳴り響いて、野次馬がたくさんいた。

九階から飛び降りたその人は帰らぬ人となった。

あたしは怖かった。

何かを感じたわけではなかったけどお母さんの体が心配で心配でたまらなくなった。

『お母さん…病院…』

お母さんの手を掴んだその時、あたしは驚いた。

お母さんのその手は骨と皮しかないくらい細すぎて、その驚きで涙が出た。

『お母さん、病院行こうよ』

泣きながらそう言うと『わかった』

お母さんは初めて頷いた。

この時お母さんは自分でも危険を察知していたんだと思う。