ある日あたしはお父さんを怒らせてしまった。

あたしはただお父さんのアイスを食べただけだったのに。

幼いあたしは怒られて泣いて、お母さんの所に逃げ込むしかなかった。

でもお父さんは許してくれなかった。

顔を真っ赤にしてあたしに向かってきた。

ただでさえ大きな体のお父さんは、幼いあたしにとっては怪獣みたいだった。

一歩一歩あたしに近づいてくる。

お母さんは『やめなさい』と叫ぶ。

あたしは怖くて目をつむった。

『やめて!』

バタンッ!!ガシャン!!

お母さんの叫びと共にすごい衝撃音がした。

目を開けるとお母さんが倒れていた。

机と椅子が倒れていた。

『お母さん!!』

あたしがお母さんに駆け寄ろうとしたその時、あたしの体は宙に浮いていた。

『ドタッ』

あたしは床に叩きつけられた。

見上げるとお父さんのおっきな手があたし目がけて飛んできた。

『やめて!!』

お母さんがあたしを守ってくれた。

あたしは泣きながらお母さんに抱きついた。

お母さんはただ強く抱きしめてくれただけだった。

でもその力はとても強く、お母さんは震えるでも泣くでもなく、ただお父さんをじっと見つめていた。

あたしは知らなかった。

今まで幸せだと思っていた家庭は、もう既に亀裂が入っていた。

それからも幾度かこんなことが続いた。

そのたびにお母さんはあたしを守り、お母さんが代わりに殴られた。

でも翌日になると必ずお父さんは平気な顔をして朝ごはんを食べ、お母さんはいつも通り食事の支度をし、あたしにもお父さんにも優しかった。

男の人は暴力を振るうんだ…それが幼いあたしにとって当たり前になっていった。