銀の月夜に願う想い


「私のせいでしょう?」

きっとメレイシアはどんな考えを持ってしてもレリアが人間の世界に戻ることを許せなかったに違いない。
だってレリアは人間に棄てられた。
ウサギを狼の群れの前に放つかのように、自分たちの勝手でレリアを棄てた、汚れきった生き物たちの元に今まで美しく優しく育てたレリアを連れて行かれるのが嫌だったのだ。


「私は今幸せだから…だから、私はちゃんと帰ります」

今の生活が愛し過ぎて。
これから無くすそれを夢にしなければいけない。
夢にしないときっとレリアは一年後にそれを求めてしまう。影を追って精神を壊し、その壊れた世界で生きなければいけない。
その壊れた世界は、きっと神となった自分を壊すだろう。


今幸せ過ぎて望んでしまいすぎると、虚無感が後で襲ってくるだろう。その虚無感に、レリアは耐えられなくなる。


だから今から離れなければいけない。少しずつ耐えがたい虚無に慣れなければいけないのだ。


『俺は……クーを幸せにしたい』

「……出来ないことです。分かって下さい」

ルゼルを幸せにするにはレリアが必要不可欠。でもレリアは光の住人にはなれない。


「私は……今が幸せだから良いんです」

これ以上を望んではいけない。だから今のままで十分なのだ。


『そうか…』

レリアの並大抵ではない覚悟を見て取ったロアルはため息をついた。

『分かったよ…君の気持ちを考慮しよう。俺は、君達の幸せに介入はしない……ただし後の一年間だけだ。それが過ぎたらクーは人の世界から離す』

「ありがとうございます……」

レリアは深く頭を下げる。そして次に頭を上げた時、金色の神はそこにはいなかった。

「私は……メレイシアの娘」

クーと一緒になってはいけない。

今の生活以上のものを、望んではいけない。