銀の月夜に願う想い


何者にも捕らわれずに孤高の美であり続ける女神メレイシア。彼女の中に、屈すると言う文字はない。

『あと一年だ…。メレイシアは君に決めさせたいのかもしれない』

レリア自身に、レリアの生きる世界を。


「私は…、メレイシアの娘でなければいけないのです」

そのことがレリアをこの世界で生かしている。反対にその理由がなかったらレリアは生きてはいないのだ。


ただメレイシアに気に入られ、気紛れで育てられただけ。それ以外にはなんの理由もない。
子狐が戯れの中で彼女の暇を紛らわせるものを持っていたから、与えられた慈悲に過ぎない。

レリアは危ういところに立っている。

『レーアが思うほどメレイシアは君を過小評価してはいないよ。君のことを大事にしている。たとえこれで君がメレイシアよりクーを選んでも、きっと恨むことはしないと思う』

「でも約束があります。私はクーを好きにならずに必ず帰るとお母様と約束しました」

決して好きにはならないと。絶対に帰ってくると。そう、約束してしまっている。なのにその約束を違えたらどうなるか。
分からないレリアではない。


『レーア、俺は君に期待しているんだよ……俺たちが出来ないことを』

「期待…?」

神である彼すら出来ぬこと。人間のレリアに彼が期待するものは、一体。

『神でも出来ないことはある。人間にしか出来ないことはある。それを、やって欲しいと俺は君をこの世界に招いたんだ。メレイシアに嫌われることを覚悟で』

「お母様に……」

そこまで彼がやって欲しいこと。神に出来ず人間に出来るもの。
自分の風聞より彼が大事にするメレイシアに嫌われても、して欲しいこと。


でも。

「それは、嘘ですね」

きっとロアルはメレイシアに嫌われるなどと言う選択肢を考えに組み込まない。メレイシアとは一緒にいる世界を望む彼なのだから。そしてメレイシアもロアルを嫌うことはない。

それなのにメレイシアがロアルを遠ざけている理由。それはきっと、そんな些細なことではない。