『一目惚れ』

その一言では表せないほどの想いを募らせ、レリアを愛した彼と、その彼の想いを受けてきたレリアの育んだ愛情。それを阻むものは、やっぱり『掟』でしかない。


一緒にはなれないと。
決して結ばれることなどないと。
自分の元から離すことによって、メレイシアは自らも背負う苦しみを娘に教えた。


やっぱり二人は、どう考えても結ばれることはない。





「そうだ、今度から陛下が主催する舞踏会を行うらしいのです。よければアユラさんもいらっしゃって下さい」

はきはきとしたセヘネの言葉にレリアはハッと我に返った。

「舞踏会……?」

「はい。普通十歳ほどで社交界にはデビューしますが、殿下はそれを断っていたらしいのです。でも、殿下も二十歳を過ぎましたでしょう?さすがにそろそろ出なければ、と陛下はお考えのようです」

元々ロアルが返さなければ死んだも同然に扱われたはずの末の王子。だからきっと社交界で顔を出す理由もないと考えたのだろうと、容易に理解できる。

(元から人前に立つのは嫌いだものね…)

しかしそれは緊張するから、という可愛い類のものではない。
ただ単に笑顔を振りまかないといけないから嫌なだけ。


「……申し訳ありませんけれど、夜はお城の中を出歩けないのです。そういう決まりがありますの」

「前から思っていたんですけれど、何かあるんですか?」

まるで監禁でもされるかのように、北の塔から出ないレリア。それは確かに傍目から見ていて不思議に思うこと。


レリアは微笑んだだけで答えはしない。
それを答えたくないのだろう、と解釈したらしいセヘネはお菓子を差し出してくる。



可愛らしい人。もしこの人にあの人の心が移ったら、それはそれで許せると思う。彼女には醜い裏の心がないから。
そう、私とは正反対。

他人に彼を取られたくないと思う私は、きっと醜いのだろう。彼女のように心の底まで澄み切っている人のほうが、彼には相応しい。


それでも自分を好いてくれている彼が、自分を好きだと言うのに。
どうして、私はその言葉をきちんと受け止められないのだろう。

またぼーっとしてしまうレリアの耳に、もう人の声、物の音すら、聞こえてはいなかった。