銀の月夜に願う想い

夜の姿のレリアは、とても妖艶だ。細かな仕草にまで気をとられるほど、目を離せなくなる何かを持っている。

だから心配なのだ。昼の姿も夜の姿に引けをとらないほど人目を集めるし、何より男をその気にさせるのは十分な身体。ヤキモキせずにはいられない。


心配でちらちらと彼女を窺うが、レリアは涼しげな顔をしているだけだ。きっとここの好奇の視線を集めているのを知っていて、無視している。

「お名前はなんておっしゃるんですか?私はセヘネと申します」


目の前にいるのが婚約者の本気で惚れている女だとは思ってもいないだろうセヘネがレリアに話しかけている。
レリアはにっこりと笑った。

「レーアです」

「レーアさん。レーアさんは……」

質問の途中で小首を傾げる。きっとこの場での地位を示せと暗に言っているセヘネにレリアはちらっと視線をよこしてきた。
自然を装って話しに割って入る。

「彼女は僕の母の友人の子供なんです。小さい頃から仲良くしてもらっている人で」

「まあ、そうなんですか」


いくら昼夜のギャップが激しいと言って、まさか昼のレリアを知っていてここまで気付かないほどとは。
確かに初めて見たときは自分もレリアだとは思わなかったが。


レリアが何食わぬ顔でセヘネと話しているのを横目で見ながら、父親を睨む。
この男は昔、レリアを殺そうとした過去がある。それに何度かメレイシアに会いに行って、そのしつこさにひどく嫌われているものだから、その息子である自分をメレイシアが嫌がるのも仕方がないには仕方がない。


この国では戴冠の儀式のあと、神々を降臨させて洗礼を受ける。それは歴代の国王が皆行ってきたことだが、実はまだ国王が神々を降臨させたがる理由がある。
それが、女神メレイシアが来れば自分の願いを叶えてもらえるという言い伝えがあるからに他ならない。

それが王位争いを熾烈化させている大半の理由。
人の欲望は底なしで果てしがないとロアルはよく言う。