夜、晩餐の席でルゼルは横にいる父親を睨みつけていた。後ろにはトファダが壁にくっ付くようにして控えている。
「何でセヘネと晩餐なわけ?」
刺々しいものを含んだ言葉に、六十歳を過ぎた国王は薄く笑みを浮かべる。
「婚約者と少しは語らいの場を設けよ。王女殿は嘆いておられると言うぞ、お前が素っ気なくて」
「…別にそんなの僕の勝手だ」
顔はまだ無表情に近いが、内心爆発寸前だ。この表情を取り繕うのさえ大変なほどに。
そのときセヘネが入ってきた。ルゼルを見てぱっと顔を輝かせる。
「今日はお招きくださり、ありがとうございます」
国王に礼をし、ルゼルの隣に腰掛ける。にこっと笑ってきたのが分かったが、笑みを返す気力さえない。
(何を企んでいるのか…)
何も企まず、この男がただ晩餐など開くはずもない。絶対に裏がある。
そう思っていたとき、再び扉が開けられた。
そこに立っていた人物に、息を呑んで目を見開く。トファダすら驚いているようだった。
何で。
どうして。
そんな言葉が頭の中一杯で、他のことが考えられない。
濡れたような漆黒の髪の毛、光を溜めた瞳。結い上げられた髪は複雑に編まれ、白い肌が妖艶に見える。
今までにない怒りを感じ、下唇を噛んだルゼルは憎々しげに父親を睨み付けた。
ふざけんな、と言って椅子を蹴り、すぐさま彼女の手をとって出て行きたい気分にかられる。でも、今この場ではそんなこと出来ない。
目で追って彼女が席につくのを見る。視線だけでごめんと謝ると、その視線に気付いた夜の姿のレリアが微笑んだ。
『大丈夫よ』と言うように。
その微笑みに少しほっとしたルゼルはちらりと隣を見てみる。
幸いなことにセヘネは彼女が誰か分かっていないようで、目を丸くしていた。
