はあ、と本日数十回目のため息を吐く。
ルゼルは机に突っ伏した。


「はぁ……」

「いい加減そのため息をやめて下さい。鬱陶しい」

ルゼルはきつい物言いをしてくる彼を睨む。

彼――ルゼルの護衛兼世話係りであるトファダは書類の整理をしながらその視線を受け流している。


「いい加減、仕事中に私情を持ち込むのはやめていただけませんか?」

「仕事はしっかりやってるだろ。文句言うな。
はぁ……レーアが恋しい」


拗ねた様子でまたため息をつく王子に、トファダは顔をしかめた。
彼は、レリアを知っている数少ない人の一人だ。


昔からあまり王位に興味のない彼には、兄王子をサポートするための仕事が回ってくる。
しかしそれに手をつけなかったルゼルが、レリアが来てからはしっかりするようになった。

何せこの世界では熾烈な王位争いが続いているものだから、毒を盛られるのは普通だし、もしかしたら寝ている間に寝首を掛かれるかもしれない。
そんな競争の世界で育つ彼にも人並みの政治力、経済力はつけていて欲しかったのに、それを全く持たずに十七歳まで生きられたのは、やはり光神ロアルの加護のおかげだろう。

でもレリアを守ることは加護だけでどうになるものではない。だから彼は彼女を守るためにそれだけの力を手に入れたのだ。



「夜になったら会えますよ。確かに美人ですけど、ここまであなたを骨抜きにされるとは思いませんでした」


あの美しさは、世間では美女と呼ばれる人の比ではない。

輝く髪と瞳。行動全てから出る気品と優美さ。醸し出される雰囲気は、とても心地が良くて。
その人は、人ではないもののよう。



でもそれは昼の顔。夜の顔はまた違った別人のように見える。