銀の月夜に願う想い


「嫌っているなんて……そんなことはないと思います」

「でも全然笑って下さらないし、話しかけても返事は凄い素っ気なくて……私がここに来てから一度もまともに話したことすらないんです」


涙を浮かべる彼女にとって、それはとても深刻らしい。


確かに他の女に興味ないから表ではあんまり親しくなんかしないよ、とは言っていたが、いくらなんでも徹底し過ぎだろう。彼女の様子を見ていればそれがどんな感じなのか良く分かる。


(これは少し注意が必要かしらね…)

話もまともにしないなんて、「あなたを毛嫌いしています。近寄らないで下さい」と言っているようなものだ。
それは誰でも悩むだろう。


「分かりました……今度会ったら注意しておきます」

「そんな、大丈夫です!王子殿下に何か事情があるのかもしれないし、私にも悪いところがあるかもしれないですから…」


まあ随分と健気な娘だ。こんな娘を婚約者に持っていて、なのに私のほうが良いと言う。その彼の心根が理解出来ない。

彼女と一緒になることとレリアと一緒になること。どっちが得か、分からない彼ではないだろうに。


「……ここでお別れです」


そんなことを考えながら、彼女に言う。彼女は捨てられた子犬のような目でレリアを見てくる。

「ここから先は、西の塔になります。こちらの塔には人があちこちにいると思うので、お聞き下さい」


では、と言って踵を返す。セヘネが「あっ」と声を出した。

「ありがとうございました!」

頭を下げてくる彼女に驚いたあと、レリアはふっと笑って、歩いていく彼女を見ていた。