銀の月夜に願う想い


丁寧に結われた綺麗な茶髪。澄み切った緑の瞳。華美なドレスを纏っていて余計に造作の良い顔を引き立てている。


――彼女が、セヘネ。ルゼルの婚約者。



「どうして北の塔に?」

「ここは北の塔なのですか?私迷子になってしまってとても困っていたのです。良かった、あなたが居合わせて下さって」


儚げな彼女はフワッと微笑む。その笑みは多分、異性どころか同性にさえ好感を持たせるだろう。


「良かったですね。北の塔(ここ)に来たことが見つかったら大目玉をくらいますから」


クスクスッと笑うレリアに、セヘネは不思議そうな顔を向ける。


「どうしてここへ来ては行けないのでしょうか?王子殿下にも言われまして……あなたは何故いらっしゃるの?」


純真に問い掛けてくるセヘネに、レリアは微笑を浮かべる。

「ここは私のテリトリーですから」

「あなたの…?」

目を丸くする彼女はあまり意味が分かっていないみたいだ。
まあ、知られても困るのだが。


「そういえば、あなたのお噂は聞き及んでおります。初めてお会いいたしましたけれど、こんな方が殿下の婚約者なんて、思いませんでした」

「私を知っておられるの?」

きょとんとする彼女に、レリアは笑みを濃くする。

「王子殿下から聞いておりますから…」

「殿下に?殿下はなんて?」

じっと見てくるセヘネの予想以上の食い付きにレリアはぽかんとする。


そんなに食い付くことだろうか?


「才色兼備でたおやかな方だと言っておられました」

「そう…」

しょぼんとしょげるセヘネを見てレリアは微かに眉を寄せる。

「いけないことを言いましたか?」

「いっ、いえ!ただ……王子殿下は私を嫌っているみたいなので…」


俯く彼女は本気で悩んでいるようだ。