銀の月夜に願う想い


いつも仕事が終わったあと、眠る時間を割いてまで会いにくる彼。
そんなあなたにかける言葉と言えば、

「顔色悪いわ…無理して睡眠時間削ってまで来なくて良いのに…」


気遣いで言う言葉なのに、彼にはそれが暗に"ここへ来なくて良い"という拒否に聞こえるらしい。


「レーア……それはここに来た時なしにして…セヘネにも言われていい加減うんざり」

セヘネは、彼の婚約者の名前。本当は彼が一番大切にしなければならない人であり、確か隣国の王女様。


未来の彼の、妻。



「素敵な人じゃない。気さくでよく気が利くし、何より綺麗だもの」

「レーアのほうが綺麗だよ。金髪のレーアも好きだけど、黒い髪のレーアも好き。てゆうか、レーアじゃなきゃヤダ……」


甘えるように首筋に顔を埋める彼に、レリアはくすくすと笑う。


「気付かれたら終わりね」

「気付かれてるんじゃない?彼女が泊まってる間、夜一回も行ったことないし。いつもレーアが優先」

「当たり前。あなたが誰にでもなびくような人だったら、私から振ってあげる」


悪戯っぽく言うと彼はムッと言う顔をした。


「だから君の前でしか素、出さないじゃん」

不機嫌な顔を作る彼に苦笑しながら体を起こす。
と、素早く腰に腕が回ってきた。彼の、レリアを離さないようにするための手段の一つ。


「逃げないわ」

「夜の君は危なっかしいから。もしも女神メレイシアが憑いて君を連れて行ったらって思うと、すっごい心配」


これが、彼が眠れない理由。寝てもすぐに起きてレリアの存在を確認しないと安心できない。
それを知らない頃、一回用事があってレリアが離れたとき、起きたルゼルに血相抱えて捜し回られた記憶があるから、だからレリアは夜彼の傍を離れることはしないのだ。