それなのにロアルが気をかける王子。きっと、ロアルにとって大切な人。
『だからレーア。俺の努力を無駄にしないでね』
ロアルはその金色の瞳に悲しげな色を浮かべる。
言われた言葉の意味が分からないが、レリアは頷いた。
その後『また明日来るね』と残して帰っていってしまったロアルたちを見送り、レリアは家へと帰った。
きっと怒って視線もあわせてくれないのではないか、と心配になっていたレリアは、暫く迷った後そっと家の戸を開けた。
と、レリアは抱き締められた。自分を抱き締めているのはメレイシアで、彼女の顔は分からない。
『決して外へ行ってはいけないと言ったのに……愚かな娘』
「お母様……」
メレイシアの長い真っ直ぐな髪が床に垂れる。こんな時でも泣かないのは、やっぱり闇の女神メレイシアだからなのだろう。
『そなたは何故外の世界へと行きたいと申す?ここにいるのは嫌か?』
「そんなことないわ、お母様。でも、一度だけ人間として生きてみたいの。お母様と同じモノになる前に」
人間だから成長を続ける身体。だから私は人間だと思い知らされる。十年間一緒に過ごした彼女が全く何も変わらないというのに、人間である自分はどんどん成長を続ける。
だから、果たしてこのまま彼女と同じモノになってしまって良いのかと言う疑問が浮かぶのだ。
私は人間。それは変えようのない事実。だからこそ、変わってしまっていいのか、と。
「それにあの王子様は私と同じ境遇の人でしょう?それなら寂しくないわ」
『ロアルの供物か……。ただの何の変哲もない子供ではないか。そなたに惚れたなど、認められぬことだ。ロアルの供物であるあの子供とレーアは、人の世界では許されない仲だというのに』
メレイシアは心配してくれている。
だからレリアは微笑んだ。
「大丈夫よ、お母様。私はあの人を愛さない。許されない恋なんてしない」
『守れるか?五年の月日は私たちにとって見れば短くとも、人として見れば長いものだ。五年後、帰りたくないと駄々をこねるのではないか?』
「大丈夫。きっと、お母様のところに戻ってくるわ」
だって私はメレイシアの娘としていられることを誇りに思っているから。
だから私は、絶対に帰ってきます--。
