銀の月夜に願う想い


飲めない訳ではないが、レリアに対して酒は良い方向に働かない。

それを知っているルゼルはグラスを奪った。

「ほら、君にはこっち」

指をさして紅茶を示すと「仕方ない」と言う顔をする。

ちょっと残念そうなレリアを微笑ましく思って見ていたルゼルは、その時「ゴホン」というわざとらしい咳に正面を見た。

そこには今の今まで忘れていたアルスが。

「お前、いい加減俺がいることを思い出せよ」

「悪い。忘れてた」

「棒読みなくせに。本気で悪いと思ってんのか?」

「思ってるよ」

本当は微塵も思っていない。むしろずっと忘れていたかった。


「にしても、随分堂々と浮気してるな?良いのか?」

眉を寄せている彼でも、さすがにこんな形で浮気など出来まい。

ルゼルはニヤッと口端を上げた。

「こっちが僕の本命だからねぇ。浮気も何もないじゃん?」

まるで危機感のない物言いにアルスはポカンと半口を開けている。

「そんなこと言って良いのか?セヘネ嬢の母君、怖いんだろ」

「まぁ……バレたら仕方ないし、婚約破棄されても僕は困らないから良いよ」

「お前は良くても国的には大問題だろ!」


別に他国と戦争中ではないから良いが、外交には問題が発生する。

未来のことも考えて喧嘩仲になるのは避けたい。

でも。


「僕には関係ない」

レリアがいればそれで良い。それ以外は何も望まない。

隣りにいるレリアの髪をすくう。それに指を滑らせたあと、耳元で囁いた。

「今夜は離さないからね?」

顔を離すと彼女は肩を竦めた。


目の前で今までにないくらい口元を緩めているルゼルを見てアルスは変な顔をした。

「お前、セヘネ嬢はどうするんだ?」

「僕セヘネに興味ないもん。レーアさえいれば十分」

満面の笑みを浮かべたルゼルはレリアの髪を撫でた。
それに彼女はくすぐったそうに笑う。