銀の月夜に願う想い


ここにはセヘネがいる。ルゼルの婚約者を知らぬ者などいないから固まっているのだ。

まさか誰も、ルゼルがこんな堂々と浮気するなんて思っても見ないだろう。

本当はレリアのほうが本命だけれど。



レリアの手を引いてソファに戻ったルゼルの前にグラスが手渡される。

渡した相手はレリアの前に紅茶を注いだティーカップをおいた。

「ありがとう、トファダ」

「いいえ。お美しかったですよ、レーア様」

「嬉しいわ」

にっこりと笑うレリアの前に茶菓子をおいたトファダは後ろに下がる。

普段ルゼルの隣りに女がいてもそんなもの出さないくせに、レリアには律義だ。

レリアに酒を飲ませないのは自分だから、それを考えてくれているのだろうけれど。


満足そうに紅茶を口に運ぶレリアはチラッと見てきた。

「ねぇ、少しちょうだい?」

何を言われているのか理解したルゼルは微かに眉を寄せた。

「だーめ。レーアはそっち」

「少しくらい良いじゃないの」

ムウッと頬を膨らましたレリアはフォークですくったケーキの欠片を突き出してきた。

「グラス渡さないとくっつけるわよ」

ルゼルが甘い物が嫌いと知っていてやっているこの言動。

ため息をついてグラスを渡す。

「半分までね」


毎回思うが、何故こんなにレリアには甘いのか。

嬉しそうに笑い、ケーキを口の中に入れてからグラスを傾けるレリアは、次の瞬間嫌そうな顔をした。

「アルコール、キツくない?」

「そう?普通だよ」

自分は酒に強いから普通でも、ほとんど飲まないレリアにはキツイに決まっている。

ルゼルが酒は飲めても甘い物はダメなように、レリアは甘い物は大丈夫でも酒がダメだ。

しかも本人はそれを自覚していないから、興味本位で手を出そうとする。それがまた厄介なのだ。