そうして息急いで密室を抜け出したのに…、どうしてだろう。



ホームに降り立ってすぐに私は、チラリと後ろを振り返ってしまった。




「・・・ッ」


すると何故だか彼もまた、こちらを見ていて視線が合致する。




まるで瞬間的に、時が止まったかのように――…




目を細めて頷いたその姿に、私の目線も身体も囚われて動けなくなってしまう。 




電車が発車します、閉まる扉にご注意ください…――


プシュー…、バタン――

機械的なアナウンスともに、再びその扉が閉ざされた。




そうして電車が発車するまでの、あっという間の出来事だったのに。



自分がどうして立ち止まっているのかさえ、その理由も分からないのに。



私は颯爽と過ぎ行く電車を、見えなくなるまでずっと眺めていた…。