来るまでは昼の部の一部だけを見て、直ぐに帰るつもりをしていたのに。
長丁場である全く知らない歌舞伎で、こんなにも魅せられると思わなかった。
「…凄かったな」
「・・・うん」
大和が呟いた一言には同感で、不思議な一体感に包まれる座内に興奮は収まらない。
絶妙すぎるアナウンスにも助けられて、すっかり話に夢中だったもの・・・
観客からの掛け声と拍手に包まれた演目を終えて、一同に舞台で正座する役者の面々。
本来は出演役者たちは、先に口上という自己紹介や挨拶をして舞台に入るらしい。
だけど今回はソレを最後にするから珍しいと、隣席から届く話し声で知った私たち。
帰るチャンスはあったというのに、何だか最後まで見届けたくて動けなかった…。
「いづれもさま(※観客の皆様の意)におかれましては…」
芸歴の浅い者から順々にされる口上は、やっぱり歌舞伎コトバ満載なのだけど。
堅苦しい口調とは裏腹に、本日の主役の人柄をコミカルに伝えてくれるから。
すっかり場内を笑いの渦へと巻き込み、その人柄に少しだけ触れた気にさせた。
私の視線は舞台中央でオーラを放ちながら笑う人、一点から外せないほどに…。

