憎んで、恨んで、一生会う事の無い筈だった、父という存在が目の前にいる。
動揺して飛び出すかもしれないと思ったけど…、そんな気が全く起きなかったの。
それどころか、私まで歌舞伎の世界に踏み入れたような感覚で足が動かなかった。
何も知らない私でも震えていたほど、舞台上の甲斐氏の演技は圧巻モノだったの。
彼の演じる菅原道真はオーラと威圧感があって、言い表せないくらい素晴らしかった。
まるで“本物”の時代絵巻を見ているように、流れる速度や臨場感に息を呑んだ。
素晴らしい舞台を見ると世界観が変わるっていうけれど、そんな感じの心境で。
遠慮がちにチラリと観客を見渡せば、やっぱりソレは私に限ったことではなかった。
「・・・っ」
舞台で繰り広げられる光景に見入る観客の姿で、思わず泣きそうになってしまう。
「大丈夫か?」
すると手を握ったままの大和が、コッソリと耳打ちして心配そうに尋ねてくれて。
コクンとひとつ頷いて笑顔を見せると、余計に表情が曇ったようにみえたけど。
だから大和の大きな手を改めてキュッと握ってから、また舞台へ視線を戻す私。
化粧を施していて分からないけど、何となく似ている気がする彼を見る為に・・・

