切断機を離れた私たちは一旦、ザッと会場を見渡してみた。
「う~ん、ワイヤーカット加工機は?」
今回の展示会で、新型の登場を見送られた工作機械だ。
一番空いていると思われる、そのブースを提案した。
「はい、どこでも良いっすよ!」
「了解ー!」
彼の返事を聞いて、そそくさと歩き始めた。
先ほどまでとは、明らかにテンションが違うなんて。
よほど部長の同行がイヤだったのね・・・
目的のブースに到着すると、担当者がすぐに説明を始めてくれた。
ワイヤーカット放電加工機とは、ワイヤーの加工を行う工作機械。
黄銅製のワイヤーを、鉄などの通電する材料を熔融して切る。
使用するワイヤーの直径は、0.05㎜から0.3㎜と様々――
私は何度となく説明を聞いているし、黙っているつもりだったけれど。
覚束ない説明には、仕事人間の血が許せなかった・・・
「この場合は、もっとお客様に解り易く・・・」
いつの間にか、ライバル社にフォローや補足をする始末で。
挙句の果てには、他の招待客に担当者だと勘違いされてしまう。

