達人は反撃するとは言ったが、先手を取るとは言っていない。

無力化しろとは言ったが、倒せとは言っていない。

つまり、こちらから仕掛けなければ闘争は生まれず、闘争が生まれないのならば倒す必要はない。

ならば戦いを避け、その場から退く事。

それがこの場での最善の答えだった。

禅問答のようだと思うだろうか。

しかしこれこそが究極。

戦いさえ生まれなければ、武術も武道も必要ない。

戦いに勝利するのではなく、戦いを起こさない。

それが真の達人であり、真の奥義、極意という訳だ。

「無論、これは全ての答えではありません。それでも戦いを仕掛ける者はいますし、どうしても相手を傷つけなければ闘争を避けられない場合もあります」

達人は静かに目を閉じる。

「敵がいるようではまだ未熟なのです。争いを起こす事なく、敵を作る事なく身を守る…それが究極の奥義であり、極意です…丹下君、君は今日、その入り口に立ったに過ぎません」