「弟が所属してた少年野球チームは、昔、光一とコービーも入ってたの。」


波多野は語りはじめた。


「うちの母が、ピアノ教室やってたって言ったでしょ!その発表会の日と、弟の試合が重なっちゃってね…あたしは演奏しなくちゃならないし、父も手伝いで、誰も応援に行けなかったの。最後の大会だったのに…」


そろそろ、それぞれの部活を終わらせた部員達が、ゾロゾロと下校しはじめた。


「歩きながら話さねぇ。」


そう徳幸が言って、二人は歩きだした。


「最後の大会なもんだから、皆も大奮闘で勝ち進んじゃって、ちょっと遠い野球場まで行かなきゃならなかったのね。いつもなら自転車なのに、その日は、車を出せる人が、手分けして子供を乗せて行くことになってね…弟も一緒に連れて行ってもらえて、安心して発表会を開くことができたの。」

「…それで事故に?」

「誰が悪いとかそんなことよりも、母は自分を責めてね…その日からピアノを開けたことはないの…」

「…それは…」

「あたしはね、もう立ち直ってるんだよ。皆が居てくれたから!もちろん忘れることはできないけどね…まわりにも影響を与えた出来事だった。」

(まわりって、碧人の妹のことか?)

「光一は供養だからって言って、中学でも野球部を続けてくれたんだけど、コービーは退部しちゃった!ホントに仲良くしてくれてたから…それでね、途中からバスケ部に入部したの。」

「そうだったんだぁ。(だから控え選手って…)」

「…茜ちゃんはね…」

「ピアノを弾く場所がなくなってバンドをはじめた(ってワケか)。」