曲の繋ぎ目の部分で、自分が弾いた鍵盤を、簡単に譜面に残した茜は、


「変に凝らない方が良いんじゃない?シンプルが一番!こんな感じで!」


と、碧人に手渡した。


「どーみても、ギターメインの曲じゃん!バラードじゃないんだし。」


徳幸は、自分の中での印象が良いとは言えない、茜の意見を聞きながら

まるで、

“自分達のやっている音楽と、私の携わっている音楽を一緒にするな”と言われているような気がして、

あまり気分が良くなかった。


「じゃあ、これでイイじゃん!ごめん、俺、今日ちょっと用事あってさぁ。」

「そうなんだ?」

「ああ、これで帰るわ。」

「おう、お疲れ!」


もちろん、用事なんて嘘っぱち。


だから、引き止められずに、あっさり手を振られた時は、
自分より、茜の方を選ばれた様で、軽く嫉妬すら覚えた徳幸だった。


「なんだよ!メンバーは俺なのに…」


そんなことを思いながら歩いているところで、

「あれ、トクちゃん!」


皮肉にも、小出家に向う波多野と出くわした。


「もう終わっちゃったの?」

「いや、ちょっと…」

「あ、なんか用事?」

「ああ…」


自分のツキの無さに、言葉がなかった。