徳幸の高校生活は充実していた。


たとえ、バスケをしなくとも…

“共に目標を掲げ、汗だくになって追いかける”
そんな、いかにも青春って感じでもなければ、
成績に拘って勉強しているわけでもなく、

ひたすらギターに打ち込んで

くだらないけど、耳ざわりじゃない会話が飛びかう、その中に、
自分という存在があり、必要とされている…

ただそんな、なんてことないことが嬉しくて、
そんな場所が、居心地良かった。


学校帰りに、皆で立ち寄るファーストフードで、
何気なく正面に座る好きな子の顔を、直視できなかったり、

いつもの様に、まわりに気を配るその子のそばに、ホッとしながらも、
その態度や仕草、表情にドキドキしている。


そんな自分をひた隠して、普通を装ってる時間は、
ちっとも長く感じられず、それどころか、
こんな時にかぎって、時刻の過ぎるのが速く思えた。


校舎のどこからでも、彼女を見つけることができる。


そんな時、まわりはすべて脇役だった。


笑い声だけで、どこに居るのかを感じ、
すぐに振り向くのは恥ずかしいから、気がつかないフリをする。

すると向こうから

「今日、碧人ん家行く?」

と、声をかけてきて…

今度は眠そうに

「あー、そのつもり」

とか言ってしまう。


それからの放課後までの時間は、
やたらと長く感じるものだった。