海岸から上がり、皆でワイワイと賑やかに、海岸線を渡っていた。


その時も波多野より前を歩き、視界に入らぬ様にしている徳幸。


(俺は、なんて小さい男なんだ。)

そんなこと思いながら、ふと視線を正面横に移した時だった。


(!恩田未知子だ!!)


徳幸はすぐにわかった。


当然、背も伸びていたし、髪型だって違った。


ただ、まだ化粧っ気のないその顔に、
昔の面影が残っていて、

“初恋のみっこちゃんに間違いない”と確信した。


でも徳幸は、話かけるどころか、すれ違う直前に、目を反らしていた。


知らない人ばかりが、こんなに大勢いる時に、話しかけられても、きっと困っただろうし、
誰かしら、チャチャを入れてくる予想もついた。

それに、

梅原から聞いていた話が、
何よりも、そうさせた原因となったに違いない。


さっきの波多野の件といい、
徳幸の性格上、
突然では、何をどう話したら良いのか分からないのだ。


幸い、彼女は気付いてはいないようで
しばらくして、徳幸が振り返ってみたが、
彼女は、スタスタと歩いて行ってしまっていた。


まさか、福岡に行った少年が、
こんな所を、大勢で歩いているなんて、思いも寄らなかったのだろう。


その時ばかりは、波多野の件を忘れていた徳幸だった。