茜は“Β”の歌で、
まだ、バンドではコピーしていない曲を、弾きはじめたのだった。


「あ。」

「弾いたことないから、全然ダメだね。」


時折、音が外れながら、
流れてくるメロディーに乗せ
隣で徳幸は、
小声で歌詞を口ずさんでいた。


「あ、ごめん。間違えた。」

「あのさー、イイとこなのに!」

「あはは、だって初めて弾くんだもん!」



徳幸のために、初めて弾く曲。



「ちょっと待って、あ、こうだ。」


音を探しながら、鍵盤を叩く茜を、

「あ、かね…」

「え?」


徳幸は、初めて、名前で呼んだ。


茜が振り向くと、
とたんに視界がふさがれ、

二人の唇が重なった…



その唇が、静かに離れていったあと、
もちろん、二人は見つめ合い、
そして、言葉を交わすのだった。


「…突然なに?」

「あ、ごめん…」


―え!そんな言葉ですか?―


「…夏、あたしに偉そーに、自分を大事にしろって言ったのは、どこのどなたでしたっけ?」