「いいんじゃないの?!」


そう言って、
律子は波多野の背中を押した。


2、3歩前に出た波多野は、
振り返り、律子を見ると
ニッコリ微笑んで頷いた。


そして波多野は、
舞台の端に追いやられているピアノの前に座る。



「おい、何してんだ?」


碧人が止めようとすると、

それを、止めるように、
徳幸が、碧人の腕を引っ張った。



「香織ね、時間がある時、いつも音楽室で弾いてるんだよ!この曲。」


律子の話で、
茜の言葉を思い出した徳幸は、

「よっぽど嬉しかったんだよ。」

と、碧人を肘で突いてみせた。



波多野が伴奏を弾くことで、
会場の歌声は一段とまとまり、

ブラバンの指揮者が出す合図で
なんとか、唄も、終局を迎えることが出来た。


一時はどうなるものかと思ったが、

これ以上の騒ぎにならずに済んで、
ひと安心するメンバーの横で、

感動しまくっているのは顧問だった。