茜は防音室に居るようだった。


「なんか食うもん調達してくるから、入ってて。」


碧人が、気を使ってくれているのが伝わる。


照れながら、二重扉を開けると、
聞き覚えのあるメロディーに、
徳幸は導かれた。


「すげーな、やっぱ!」


それは、
茜を前に、ソロライブをして聴かせた、
あの曲だった。


「嬉しかったからね、何度も原曲を聴いて、練習してたの。」

「へー。」


徳幸は、キーボードを弾く、茜の隣に立った。


「あたしね、いつも、人が遠ざかる様な事、わざと言ったり、やったりしちゃうの。」

「…なんで?」

「あとになって消えられちゃうのは、もう嫌だから!だったら最初のうちに…」

「……」

「ピアノの発表会…あっちゃんが観に来るって言うから、お姫様みたいな衣裳を作ってもらったのに!…野球の試合に勝ち進んだりするから…だからあたし“試合なんか出来なくなればイイ!”って言っちゃって…そしたら本当に…その試合は」


茜がそこまで言うと、
徳幸は、たまらず
黙って、
茜の肩を抱き寄せた。


(そっか。そんなことがあったんだ。)


「誰にも言えなかった…今まで、ずっと………の」

「もう、いいから。(罪を背負ってたんだ…この小さい背中で。怯えてたんだね。)もう大丈夫だから。」