その日、徳幸は独りで、海岸線沿いを歩いていた。


何日か前、
光一がこっそり教えてくれていた、
今日は、波多野の弟の命日にあたるらしく…


「皆で墓参りに行くんだ。だから、練習は無しってことで!」

「ああ。そりゃそーだよ。」


アツキくんと面識の無い徳幸は、当然、誘われることは無かった。


もちろん、ふて腐れているワケではない。


ただ、幼い頃に、父方の祖母が他界した時ぐらいしか、身近な不幸に立ち合ったことの無い徳幸には、
皆の心境が、どんなものなのか、分からなかった。


そして軽率にも、茜にあんなことを言ってしまって以来、

もう二度と、

この話題に関しては、触れない様にしていたのだった。


と言うことは、必然的に、

波多野の恋路の手助けも、
自分の恋の行方も
それ以上、邁進することができず

一時停止状態となっていた。


でも、気持ちの中では、
理解しようという思いであふれ、
その時、ふと思い浮かんだのが

“北村恭一”の存在だった。


しかし、自分はそれほど関わりは無く、

かと言って“恩田未知子”に、接触するつもりなど毛頭ない。


徳幸は、接点があったと言う、梅原のもとへと向う途中だったのだ。