皆と一緒に居るとき、
あまり、二人が話してるところを見たことがない。


それなのに、それぞれ二人から、互いの親身な話を聞かされることがあった。


(俺が見たことナイだけで、どっかで話し合ってんだなぁ。)


確かに、店に入った時、
波多野の隣には、
いつも、碧人が座っている絵が思い出される。


あの時も、あの時も…。


(そうだった。そんなだった。)



これだけ長い付き合いで、波多野のことを名字で呼び通すところは、昔のなごりなのだろう。


(碧人が“波多野”で、まわりが“香織”って呼ぶワケにはイカねーもんなぁ。)



皆が碧人を気遣い、
碧人が波多野を気遣い、
波多野が茜を…


何も知らなかった徳幸は、
“新しい風”と言われ
浮かれていたというワケだ。


一気に気持ちがメゲていた。


波多野への告白は
見通しがつかなくなったうえ、

茜の告白は、カムフラージュだと分かった。


(ま、茜のことで、皆と気まずくなることは避けられたな。危なく信じて恥かくとこだったよ。)


そして徳幸は、
何も無かったことで、
何も聞かなかったことにして、
今まで通りにやっていくことを決めた。


(でも、知らないフリは難しいかもなぁ。無視って出来ないんだよなぁ俺。)