「だったら全部あげるわ! そしたらショウの穢れは消える? 闇の中から出られるの?」
「……お嬢様」
「シュリっ。わたしはシュリ! どうして一度だって名前を呼んでくれないの?」
気づいてたのか……。
俺が名前を呼んだことがないことを……。
俺がお嬢様の近衛兵についた時、自分を戒める為に彼女の名前を呼ぶことを自分に禁じていた。
そうしないと、情が移ってしまう。
出会った時から、心のどこかでそれを感じ取っていたのかもしれない。
「俺なんかが口に出して良い名前では……っ」
俺の言葉を遮り、不意に唇を重ねてきた彼女に俺の動きは止まった。
「これでショウの口、穢れは無くなった?」
「お嬢様!」
自分の立場も考えず、自分の下臣に口付けをしてきた彼女に憤りを感じる。
彼女は何もわかっていない。
自分がどれ程清らかで、多くの人に愛されているのか……。
俺の手がどれだけ多くの血で穢れきっているのか、を……。
言葉を失って呆然とする俺に構わず彼女は、
「シュリだよ」
強い眼差しで俺を見据え、自分の名前を呼べと訴えてきた。
「……シュリ様」
「シュリだってば! 様なんかつけたら返事しない」
物言いがまるで子どもだ。
「…………シュリ」
俺が彼女の近衛兵になってから一度だって口にしたことがない名前。
口にすればきっと、押し殺していた感情が溢れ出てしまいそうになるから……。
「なに?」
躊躇いながらも口にした名前に、破顔した彼女は嬉しそうに返事をする。
思った通りの表情を見せるシュリ。
そんな顔をされるともっと欲が出てしまいそうだ。
「部屋にお戻りください」
「……嫌。ショウの傍に居る」
俺の気持ちを知ってか知らずか。
シュリは俺の言葉を拒否し、俺の体にしがみつくように抱きついてきた。
「……シュリ」
「いくら拒まれたって……ショウが苦しい夢を見なくなるまで……わたしは何度だってアナタの傍に行く」
俺の背中に回したシュリの手にギュッと力が込められる。
普段のやたら大人びた表情は今や駄々っ子同然だ。

