こんな何でもない日常が僕は好きだ。



「シューゴ様っ!」

僕を呼ぶ明るい声。


ゆっくり振り返れば飛び込んでくる温かい笑顔……。



「リンさん……ッイタ!」

……と鉄拳。

しゃがんでいる僕に影を作りながら笑顔を浮かべたリンさんの片手は軽く握られてる。


「やり直しですっ」

「はい……じゃあ、リン」

「はい! シューゴ様」



そしてまた満面の笑み。
リンさん改め、リンは僕の侍女。
彼女は侍女である自分に主である僕が敬称をつけるとこうして怒ってくる。
僕より一つ年上だからつい敬称だってつけてしまう。
でも、とにかく明るくて温かい。

……僕の想い人だ。


「今日は顔色も良いみたいですね」

「……うん。おかげさまで」


僕の顔色や体調を気にかけるのがリンの癖になっている。

情けない話、昨日も熱を出して母上とリンに看病して貰ったところだった。


「僕もランシェみたいに強ければ良かったのに……」


ランシェは僕の二つ下の弟。
父上の血を忠実に受け継いでいる剣士見習いだ。
父上と厳しくも楽しそうに剣術の修行をしている姿は羨ましい限り……。


「何言ってんですかっ。旦那様は勉強熱心なシューゴ様を誇りに思ってらっしゃるんですよっ?」